猫を起こさないように
日: <span>1999年1月30日</span>
日: 1999年1月30日

オール・イズ・ロンリネス

 ボリスとパラジャーノフが新進女優マリヤ・フィリーポヴナの地下演劇時代に撮られたと言われているポルノビデオの真贋を薄目でためすがめつしているのを後ろに、私とセルゲイは隣室に用意された床についた。夜の深さの底で聞こえてくるのは犬の遠吠えと、ただマリヤ・フィリーポヴナのあえぎ声だけとなった。
 「なんやこれ、モザイクかかっとるやないか。喰うてまうぞコラ」
 パラジャーノフのひどいモスクワ訛りの野卑な批評が聞こえた。幾度目かの寝返り。眠れない頭に昼間の光景がフラッシュバックする。都会の雑踏に互いに視線を交わすこともなく足早に歩み行く人々。なぜ彼らはあのように生き急ぐのだろう。 私がそれは急がないとファンファンファーマシィの本放送を見逃してしまうからであるという結論に達したとき、隣で寝ていたはずのセルゲイが手をのばし私の股間をぐいとひとつかみした。熱くたぎった私のパラヴォイ・オルガニィはもう先ほどからずっとビンビンであった。いや、むしろチンチンであった。
 「…女がいるって、嘘じゃねえか…」
 セルゲイが、池上遼一の漫画に登場する二重アゴの下段に妊娠したような悪役デブの顔で天井を見上げたまま低く言った。私はそれには答えずセルゲイの布団に手を忍ばせるとヤツの股間をぐいとひとつかみした。熱くたぎったセルゲイのパラヴォイ・オルガニィはもう先ほどからずっとピンコ立ちであった。いや、むしろチンコ立ちであった。
 「…曜日ごとに女を交換するって話はどうなってんだ…」
 私たちは顔を見合わせると、お互い自身を握りしめあったまま声を潜めてくつくつと笑った。
 笑いがとぎれると再びただマリヤ・ フィリーポヴナのあえぎ声が夜の静寂の中に残された。
 「…セルゲイ?」
 セルゲイはもう眠ったようだった。池上遼一の漫画に登場する二重アゴの下段に妊娠したようなヤツの安らかな寝顔。
 私は再び天井に目を戻した。「オール・イズ・ ロンリネス」私はそっと声にしてみた。それはひどく悲しく響いたように思えた。なぜ人はこんなにも孤独で、ふれあうことができないのだろう。
 私がそれは、婦女が男性にとってたいそう都合のよい様子のらんちき騒ぎを巻き起こす種類のゲームなどでしばしばプレゼントとして提供されるロリータキャラの実寸大人形や、女子学生が体育などの際に特別にはく男子学生のそれとは名称の異なるズボンの切れ端などのレアアイテムを独占するためであるという結論に達するのと、すべての人間に救いの忘我を与える柔らかな眠りが私の上に訪れるのはほぼ同時だった。
 「なんやこれ、ピー入っとるやないか。ちゃんと四文字言わんかい。喰うてまうぞワレ」